
国の実施した「生活保護費」の支給額引き下げを巡って受給者らは国と自治体に処分の取り消しや慰謝料を求める訴訟を起しました。安倍政権(当時)は2013年~2015年の3年間に生活保護費の内食費や光熱費に充てる「生活扶助費」を最大10%減額。憲法25条で規定した「生存権」を脅かす事態です。同種訴訟で原告側の主張を認めさせれば国の政策決定に大きなインパクトを与えられます。
■生活保護費減額は「適法」受給者敗訴、2例目―札幌地裁
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032900790&g=soc
時事ドットコム 2021年03月29日16時53分
2013年から15年にかけての生活保護基準の引き下げは生存権を保障した憲法に違反しているなどとして、北海道の受給者ら約130人が道と札幌など5市に減額処分の取り消しを求めた訴訟の判決が29日、札幌地裁であった。武部知子裁判長は原告側の請求を棄却した。
■生活保護費減額は違法 13~15年分を取り消し―受給者初の勝訴・大阪地裁
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021022200673&g=soc
時事ドットコム 2021年02月22日 19時55分
2013年から15年にかけての生活保護基準の引き下げは生存権を保障した憲法に違反しているなどとして、大阪府の受給者ら約40人が国と府内12市に処分の取り消しと1人1万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、大阪地裁であった。森鍵一裁判長は減額処分を「裁量権の逸脱があり、生活保護法の規定に違反している」と判断し、取り消す判決を言い渡した。
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利!
国の実施した「生活保護費」の支給額引き下げを巡って受給者らは国と自治体に処分の取り消しや慰謝料を求める訴訟を起しました。弁護団によれば同種訴訟の原告は約900人で全国29地裁で争っています。
安倍政権(当時)は2013年~2015年の3年間に生活保護費の内食費や光熱費に充てる「生活扶助費」を平均6.5%、最大10%減額しました。制度創設以来最も大きな引き下げ幅で年間の総額は「約670億円」に上ります。
原告側の主張は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障した「憲法25条」です。主な争点は生活保護基準の改定に関する厚生労働相の「裁量権」の「逸脱」又は「濫用」の有無です。
大阪地裁⇒裁量権の逸脱・濫用!
2021年2月22日(月)。大阪地方裁判所(大阪地裁)の森鍵一裁判長は生活保護基準の改定に関する厚生労働相の判断について「減額改定は裁量権の逸脱」「生活保護法の規定に違反している」と述べました。原告42人の内39人の処分について引き下げを行った自治体の決定を取り消す判決を言い渡しています。
原告側は支給事務を行っていた大阪市などの12市を相手に取り消しを求めていました。全国の地裁で起こされた同種訴訟の2例目の判決で原告側の請求を認めた初のケースになります。一方で、判決は減額の違憲性に関する判断は示さず1人1万円の慰謝料請求はいずれも退けました。
2021年3月5日(金)。大阪市や堺市など大阪府内の12自治体は「大阪地裁の判決を不服」として「控訴」しました。各自治体は保護費の支給事務などを受け持っていて控訴理由を「後続の判決に影響を与える可能性がある」「上級審の意見を踏まえ生活保護の取り組みを進めたい」と説明しています。
2021年3月8日(月)。原告側は被告側=自治体の動きに対抗して「1人1万円の賠償請求を認めなかった大阪地裁の判決」を不服として控訴に踏み切りました。泥沼の様相です。
札幌地裁⇒裁量権の逸脱は認めず!
2021年3月29日(月)。北海道内の受給者約130人は道や札幌など5市を相手取って引き下げ処分の取り消しを求めました。札幌地方裁判所(札幌地裁)は原告側の請求を棄却。同種訴訟の3例目は厚生労働相の裁量権の逸脱を認めず司法の判断は分れました。
武部知子裁判長は「物価の動向を反映させるかどうかなどは厚生労働大臣に委ねられている」「専門家による検討を経ていなくてもその判断や手続きが裁量権の範囲を逸脱したとは言えない」と指摘しました。また「基準額が引き下げられた後の原告らの暮らしが基本的な生活条件などの側面から見て最低限度の水準を下回っているとまでは認められず憲法に違反していない」と述べています。
原告側弁護団の渡辺達生弁護士は「貧困についての裁判所の考え方が時代に即していない」「こちらの問いに答えない逃げた判決だ」と述べて控訴の方針を示しました。また、原告団長の後藤昭治氏は「原告達の悲痛な生きざまが裁判官に伝わらずとても悔しい」「弁護士に控訴してもらい闘い続ける覚悟だ」「これからも命ある限り皆さんと一緒に頑張っていく」とコメントしています。
法廷闘争は長期化の様相?
■「新・人間裁判」に不当判決/生活保護費引き下げ 違憲認めず/札幌地裁
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2021-03-30/2021033015_01_1.html
しんぶん赤旗 2021年3月30日(火)
原告団弁護団 抗議の声明
札幌地裁の不当判決を受けて、「新・人間裁判」の原告団・弁護団は29日、抗議声明を発表しました。
声明は、判決が道や札幌市などの被告の主張を丸のみして厚生労働相の「裁量」を認めた上、原告側の主張を検討することなく、処分に裁量の逸脱・乱用があったとは言えないと断定。原告らの生存権侵害を認めなかったことは、裁判所が原告らの厳しい生活実態に真摯(しんし)に向き合わなかった結果だと批判しています。
生活保護費の10%削減という自民党の政権公約を実現する目的で行った引き下げを安易に追認した判決は、行政を追認して司法の役割を放棄したものに等しく、到底容認できるものではないと厳しく指摘しています。国と被告が生活保護基準を引き下げられたすべての生活保護利用者に真摯に謝罪し、引き下げ前の保護基準に戻し、生活保護利用者の健康で文化的な生活を保障するまで断固たたかい抜くと表明しています。
尚、同種訴訟の1例目は2020年6月の「名古屋地方裁判所(名古屋地裁)」で原告側の請求は棄却されました。最低生活費を削る無茶苦茶な基準改定。控訴は権利ではあるものの厚顔無恥な自治体には憤りを禁じ得ません。
元々国は「デフレによる物価下落」を理由に生活保護費の減額に踏み切ったのでこの点に疑問を投げ掛けた大阪地裁の判決は大きな意味を持ちます。生活保護基準は他の制度の指標も兼ねています。同種訴訟で原告側の主張を認めさせれば国の政策決定に大きなインパクトを与えられます。
一方で、安倍政権の路線を継承した菅政権は生活保護の増額に否定的で抑制路線を維持しています。大阪地裁の判決を持って直ちに増額される可能性は低く「生活保護の適正な基準」を巡って訴訟は長引く見通しです。折しも4月1日(木)に再生可能エネルギーを普及させる為に電気料金に上乗せしている「負担額」は値上りしました。受給者の生活は益々苦しくなります。




