
インターネット上の「海賊版サイト」の対策強化を柱にした「著作権法改正案」は参議院本会議で可決・成立しました。所謂「違法ダウンロード」の対象範囲を「すべての著作物」に拡大しています。一方で「利用者の過度な萎縮」を避ける為に「例外規定」を設けました。また、海賊版サイトに利用者を誘導する「リーチサイト」への規制として運営者に対する刑事罰などを盛り込んだ内容です。
■著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/monkaEB95994EC26936BE4925857000113D0A.htm
衆議院 第201回国会閣法第49号 附帯決議
■海賊版ダウンロード、私的も違法に 改正著作権法が成立
https://www.asahi.com/articles/ASN655JFHN64UCVL01T.html
朝日新聞デジタル 丸山ひかり 2020年6月5日 17時00分
インターネット上の海賊版対策を強化するため、著作権を侵害したコンテンツのダウンロード(DL)の規制対象を広げる著作権法改正案が5日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。2021年1月に施行される。著作権者に許可なく違法に公開されたものと知りながら漫画や写真、論文などの著作物をDLすると、私的な目的であっても違法となる。
■海賊版に「対抗手段」歓迎 著作権法改正で業界団体
https://www.sankeibiz.jp/business/news/200606/bsm2006061930004-n1.htm
SankeiBiz(サンケイビズ) 2020.6.6 19:30
漫画など著作物全般の海賊版ダウンロードを規制する改正著作権法の成立を受け、出版広報センターと日本漫画家協会は5日、「新たな対抗手段を得て海賊版サイトに立ち向かうことができる」とする共同声明を出した。
同センターは出版関連の9団体でつくる業界団体。声明では「軽微なもの」など規制に例外を設けた対応を「善良なユーザーに過度な萎縮が生じないバランスのとれたもの」と評価。今後は正規版を示す「ABJマーク」の利用促進に取り組むとした。
バランスの取れた法改正?
2020年6月5日(金)。参議院本会議。インターネット上の「海賊版サイト」の対策を強化する為の「著作権法改正案」で全会一致で可決・成立しました。一部を除いて2021年(令和3年)1月1日(金)の施行です。
これまで音楽や映像に限定していた「違法ダウンロード」の対象範囲を「漫画」「書籍」「新聞」「論文」「ソフトウェアのプログラム」など「すべての著作物」に拡大しました。また、海賊版サイトに利用者を誘導する「リーチサイト」への規制として運営者に対する刑事罰などを盛り込んでいます。
リーチサイトの規制について!
今回の改正で海賊版サイトに誘導する「リーチサイト」の運営は違法になりました。この規定に関しては今年10月1日(木)に施行します。違法にアップロードされた著作物(侵害コンテンツ)を悪用する海賊版サイトへのリンク情報を集約したリーチサイトでリンクを提供する行為は刑事罰の対象になります。有罪の場合は「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」でサイトを運営する行為は「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」を科します。
教育の情報化に対応した権利制限規定などの整備について!
改正著作権法の内「第35条」で規定する「教育の情報化に対応した権利制限規定などの整備」に関しては「授業目的公衆送信補償金制度」を今年4月28日(火)にスタートしました。所謂「ICT」の活用で教育の質を向上する学校等の授業で「他人の著作物を用いて作成した教材」をオンラインで送信する行為などは個別の許諾なしに可能になります。
私的使用目的の規制強化と例外規定について!
著作権者に許可なく違法にアップロードされた事を知った上でダウンロードする行為は「私的使用目的」であっても違法です。悪質な利用者には刑事罰の対象になります。刑事罰に問われるのは「正規版を有償で提供している著作物」を「継続的にダウンロード」した場合で起訴には「著作権者の告訴」を要します。有罪の場合は「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」を科します。
一方で「利用者の過度な萎縮」を避ける為に「Webサイトのスクリーンショット」「ライブ配信などの映像に映り込んだ著作物」「低画質の画像」「数十ページある漫画の数コマ」「長文記事の数行」など著作物の一部をダウンロードする「軽微なもの」は対象外にしました。また「二次創作」及び「パロディ」など「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」も対象外です。
インターネットを使った情報活用を阻害する事への懸念に配慮した形です。文化庁は具体的な線引きを指針として纏めた上で分り易いQ&Aを作成して学校現場や一般向けに提供する方針です。
立法府の緻密な仕事は高評価!
文化庁は当初2019年の施行を目指していました。しかし、Webサイトを保存しただけでアウトになるスクリーンショットの違法化に対してインターネット利用者の相次ぐ反対や海賊版サイトの被害当事者である漫画家などに「創作活動の萎縮」の指摘を受けて法案提出を見送りました。今回の改正著作権法はこうした経緯を踏まえて修正したものです。
山田太郎氏を中心にした与党議員、参考人として国会に立った赤松健氏、様々なパターンを想定した野党議員の質疑によってバランスの取れた法改正になりました。運用面に一抹の不安はあるものの実際に立件までは高いハードルを要します(冒頭の画像参照)。与野党共に緻密な仕事をした(ある意味で)珍しいケースです。
【重要】例外規定の欠陥と運用面の不安!
政府・与党は「市民の(インターネット)情報収集に影響は与えない」と説明しました。法案成立までのプロセスを踏まえれば流石の捜査当局も当面は慎重に運用する筈です。只、恣意的な運用などを懸念する声は根強く物議を醸しています。
(1)恣意的運用
(2)拡大解釈及び類推解釈
(3)オリジナルの同人作品
(4)グレーゾーン部分の解釈
(5)著作権者の告訴
(1)及び(2)については当ブログで再三述べてきた通りです。本件に限らず「法律」である以上「更なる改正」若しくは「運用次第」で中身は変貌します。(今回に限れば)立法府は信用できるとして法律を運用するのはあくまで「警察」及び「検察」です。
また、本件は「電子データ」の「所持禁止」です。児童買春・児童ポルノ禁止法やウイルス作成罪と同じく恣意的な運用は前提で考えなければなりません。麻薬や拳銃など(科学)物質の所持禁止に比べて桁違いの危険度です。
(3)二次創作やパロディは対象外になりました。元ネタのある同人作品についてはこれまで通りです。一方で「オリジナルの同人作品」については特に言及していません。条文を見たまま解釈すれば「正規版を有償で提供している著作物」であれば規制対象です。
著作権者の気持ちを考えればこれは当然です。しかし、気に入った画像を保存するのは利用者の心理として普通の事です。良し悪しは別にしてインターネット上に無数に散ばる(オリジナルの)同人作品まで規制対象にするのは非常に危険です。
(4)冒頭の画像にある「グレーゾーン」の部分の解釈については要注意です。今後の運用次第で法律の中身は変貌する上にグレーゾーンであれば捜査当局は「黒」にできます。捜査当局の動向に注視して必要であれば声を上げて対象範囲をこれ以上拡大させないようにしなければなりません。
(5)捜査当局は著作権者に「告訴させる」ので恣意的な運用などを防止する効果はほぼ期待できません。
■私的使用目的のダウンロード等の違法化、犯罪化について。
https://note.com/benli/n/n8d0f5dcc53e4
note 小倉秀夫 2019/10/09 22:15
■第426回:知財計画2020の文章の確認
https://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-633e02.html
無名の一知財政策ウォッチャーの独言 2020年6月21日(日)
知財関連法改正の中では種苗法改正案の審議が先送りになったものの、非常に残念な事ながら、著作権法改正案はそのまま可決・成立し、6月17日に国会が閉幕した。今回の著作権法改正の中に含まれるダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大については、じきにその影響が明らかになる事だろう。
■第425回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案の可決・成立
https://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-3d1e3e.html
無名の一知財政策ウォッチャーの独言 2020年6月7日(日)
今までの国会審議の経緯は、前回の追記等で書いて来たが、もう一度まとめて書いておくと、衆議院の文部科学委員会で5月20日に実質審議開始(衆議院HPの会議録1参照)、5月22日に委員会可決(会議録2参照)、5月26日の衆議院本会議で可決、参議院へ送付、参議院の文教科学委員会で6月2日に実質審議開始、6月4日に委員会可決(それぞれ参議院のインターネット審議中継参照)、6月5日に参議院本会議で可決・成立と、政府と与野党の間で完全に根回しが済んでいたのだろう、出来レースのスピード審議による可決・成立だった。
■第424回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大を含む著作権法改正案に関する私家版Q&A
https://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-45d295.html
無名の一知財政策ウォッチャーの独言 2020年5月18日(月)
今まで言って来た事の繰り返しとなるが、今回は、著作権法改正案の審議が近いと考えられる事を踏まえ、文化庁のHPで公開されている、余りにもお粗末な回答の並ぶ侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的な考え方)(pdf)から、私の考えるQ&Aを私家版として作り、ダウンロード違法化・犯罪化の本質的な問題がどこにあるのかをより明らかに示しておければと思う。(著作権法改正案の条文については第421回参照。)
■第421回:閣議決定された著作権法改正案のダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲拡大関連条文
https://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-6695d4.html
無名の一知財政策ウォッチャーの独言 2020年3月11日(水)
去年見送りになったダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大を含む著作権法改正案が、3月10日に閣議決定され、文科省のHPで公開された。第419回で取り上げた文化庁の議論のまとめに与党自民党の知的財産戦略調査会の申し入れの内容を加えた想定通りのものだが、ここで、その内容を見ておきたいと思う。
著作権法に詳しい弁護士の小倉秀夫氏と兎園氏のブログです。与野党の修正協議で大部分は改善されたものの根本的な問題点はほぼ変っていません。法改正の影響は徐々に明らかになるので要注視です。




