無名の一知財政策ウォッチャーの独言
第279回:海賊版対策条約(ACTA)主要事項年表
http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-76db.html
海賊版対策条約(ACTA)については、外務省のHPに表向きのことは大体書かれているし、Wikiでもおよその経緯は分かると思うが、この7月26日に日本の参議院でACTA批准に関する審議が開始されたこともあり、資料として今までの主要な経緯を年表形式でここにまとめておく。(なお、私は「海賊版対策条約」という略称を使っているが、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)は、初期の政府の検討では「模倣品・海賊版拡散防止条約」と称されており、最終的に公表された政府訳では「偽造品の取引の防止に関する協定」とされている。)
(以下、年表)
2004年 2月 知財本部・権利保護基盤の強化に関する専門調査会で模倣品・海賊版対策に関する議論が開始
4月 知財本部・第7回権利保護基盤の強化に関する専門調査会の「模倣品・海賊版対策の強化について(とりまとめ)案(pdf)」ではじめて模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱が盛り込まれる
5月 知財本部・第8回権利保護基盤の強化に関する専門調査会で「模倣品・海賊版対策の強化について(pdf)」をとりまとめ(第8回専門調査会の議事録も参照)
12月 知財本部・第9回本部会合で模倣品・海賊版の拡散を防止するための条約の提唱を含む「模倣品・海賊版対策加速化パッケージ(pdf)」を決定(第9回会合の議事録も参照)
2005年 6月 知財本部・第11回本部会合で模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱を含む「知財計画2005」を決定(第11回会合の議事録も参照。なお、この年表ではいちいち載せていないが、ACTAについてはこの後の知財計画でも記載され続けている)
7月 グレンイーグルズ・サミットにおいて小泉首相(当時)が模倣品・海賊版防止のための法的枠組み策定の必要性を提唱(外務省のHP参照)
2006年 6〜10月 荒井寿光知財事務局長(当時)を筆頭として外務省の田辺審議官(当時)や経産省の豊田正和通商政策局長(当時)や中富道隆審議官(当時)らがアメリカ通商代表部と接触、条文案の丸投げや勝手な国内法改正コミットなどデタラメな暴走外交を展開(第251回で取り上げたウィキリークスのアメリカ公電リーク文書参照)
2007年10月 関係国との協議開始を発表(外務省のリリース参照)
2008年 6月 第1回関係国会合(外務省の結果概要参照)
7月 第2回関係国会合(外務省の結果概要参照)
10月 第3回関係国会合(外務省の結果概要参照)
12月 第4回関係国会合(外務省の結果概要によると、ここではじめてインターネットによる知的財産権の侵害への対策について情報共有が行われている)
2009年 6月 関係国非公式会合(外務省の結果概要によると、ここではじめて透明性に関する議論が行われている)
9月 アメリカがEUにACTAのインターネットに関する部分の案を提示(第198回参照)
10月 第5回関係国会合(外務省の結果概要参照)
11月 第6回関係国会合(外務省の結果概要から見ても、ここからインターネット関連章の議論が本格化していることが窺われる)
2010年 2月 第7回関係国会合(外務省の結果概要参照。1月時点のリーク条文案について、第216回、第218回、第219回及び第220回参照)
4月 第8回関係国会合(外務省の結果概要からも分かる通り、世界的な批判を受け、ここから要領を得ないながらわずかに交渉内容が開示されるようになった)
4月 ACTA条文案(pdf)(英語のみ)がようやく公開
6月〜7月 第9回関係国会合(外務省の結果概要参照。7月時点のリーク条文案について、第237回参照)
8月 第10回関係国会合(外務省の結果概要参照。8月時点のリーク条文案について、第238回参照)
9月 第11回関係国会合で条文案がほぼ確定(外務省の結果概要参照)
9月 文化庁・文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会でDRM回避規制の強化について検討開始
9月 経産省・産業構造審議会・知的財産政策部会・技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会でDRM回避規制の強化について検討開始
10月 この時点でのACTA条文案(pdf)(英語のみ)の公開(内容については、第240回参照)
11月 ACTA最終条文案(pdf)(英語のみ)の公開
12月 文化庁・文化審議会・第32回著作権分科会でDRM回避規制の強化を含む「法制問題小委員会技術的保護手段に関する中間まとめ(pdf)」をとりまとめ(内容とそのパブコメについては、第243回及び第246回参照。なお、ACTAとの関係で国内法制上特に必要となるのがDRM回避規制の強化であることは2010年12月の知財本部会合の資料「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA(アクタ):Anti-Counterfeiting Trade Agreement)(仮称)の現況について(pdf)」で日本政府自ら認めていることである)
12月 経産省・産業構造審議会・第4回技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会でDRM回避規制の強化を含む「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について(案)(pdf)」をとりまとめ(第4回小委員会の議事要旨及び議事録(pdf)も参照。内容とそのパブコメについては、第244回及び第247回参照)
2011年 5月 ACTAの署名のための開放(外務省のリリース参照)
5月 ACTA正式条文(pdf)の公表
5月 DRM回避規制の強化を含む不正競争防止法改正案が日本の国会で可決・成立(衆議院の審議経過情報参照)
10月 日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、モロッコ、ニュージーランド、シンガポールの各国代表がACTAに署名(外務省のリリース参照)
12月 DRM回避規制の強化を含む改正不正競争防止法の施行(経産省の施行令に関するリリース参照)
2012年 1月 ACTAに欧州連合代表が署名(外務省のリリース参照)
2月〜6月 欧州で大規模な反ACTAデモや反対請願の提出(「P2Pとかその辺のお話」の関連ブログ記事やrt.comの記事や欧州議会のリリースなど参照)
3月 ACTA条文の政府版日本語訳(pdf)がようやく公開
5〜6月 欧州議会の5つの委員会がACTAをことごとく否決(第278回参照)
6月 DRM回避規制の強化を含む著作権法改正案が日本の国会で可決・成立(未施行)(内容・経緯については、第266回、第275回、第276回及び第277回参照。なお、この法改正に含まれているダウンロード犯罪化は大問題だが、国会での議論からも分かるように、ダウンロード犯罪化とACTAとの間に表向き直接の関係はない)
6月 オーストラリア議会の条約担当委員会がACTAを否決(techdirt.comの記事やinfojustice.orgの記事参照)
7月 欧州議会がACTAを否決(第278回参照)
7月 ACTAにメキシコ代表が署名(外務省のリリース参照)
7月 参議院外交防衛委員会で偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)の趣旨説明、日本の国会で批准のための検討開始(参議院の7月26日の公報参照)
(2012年7月29日夜の追記:少し表記を整えた。)
■情報源:兎園氏(http://twitter.com/fr_toen)
兎園 @fr_toen
細かなことは他にも沢山あるが、海賊版対策条約(ACTA)についてできればこれくらいの経緯は押さえておいて欲しいと思ってまとめた年表。日本の条約に関するスタンスのデタラメぶりが年表だけからでも分かるのでは。
こういう歴史を知っておくのも悪法反対に重要なことなので著作権問題で御馴染み兎園氏のブログより転載させて頂きました。
Togetter - #ACTA まもなく成立のおしらせ 【日本終了】
http://togetter.com/li/350363
来週にも衆議院で採決される予定です。
なお、ACTAのために、国際的に日本の信用は損なわれ、アノニマスから攻撃されるのはこのためです。
外務省は嘘をついています。欧州が誤解をしているなら、まず欧州の誤解を解いてから日本で批准しなければなりません。
日本の官僚のやることなのでしょうか。
参考
第279回:海賊版対策条約(ACTA)主要事項年表: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言 http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-76db.html
『模倣品・海賊版拡散防止条約 (ACTA) がヤバい』 #miaujp MIAU Presents ネットの羅針盤 - Togetter http://togetter.com/li/67319
by lkj777
野田総理は政権交代を台なしにして民主党を事実上壊滅状態にした。次の選挙では仲間のほとんどを失うだろう。しかし、野田政権が成し遂げる(だろう)ことは自民党政権でさえもできなかったことばかり。消費大増税、外環道着工、秘密保全法、・・・。そう意味ではすごい人物とも言えるのかもしれない。 miyake_yukiko35 2012/07/31 05:56:25
@tappie0710 「どうしてここまで考えが自民党に近いのに民主党に在籍しているんだろう」という議員はいます。自民党から立候補したかったけれど、選挙区が空いていなかった、または公募に受からなかったという理由だと気がつきました。ですから揶揄ではなく本当に自民党野田派なのです。miyake_yukiko35 2012/07/31 06:07:59
自民党野田派とは言い得て妙。これ以上暴走させない様にしっかりと意見すべき時はしていきたいです。
山田奨治 BLOG
ACTA:参議院外交防衛委員会ダイジェスト
http://yamadashoji.blog84.fc2.com/blog-entry-578.html
山本一太議員(自民):EUでの否決をどう分析しているか。
玄蕃外務大臣:欧州議会は欧州司法裁判所の判断を待つことなく否決した(注1)。インターネット分野での表現の自由を脅かすという意見が広がっている。ACTAは個人の正当なネット利用を脅かすものではなく、プロバイダに監視を義務づけるものでもない。
山:EUでの否決は過剰反応か。
玄:正しく理解されていない。丁寧な働きかけが必要。
山:今後の方向性は。
玄:まず発効させてから、働きかけをする。
宇都隆史委員(自民):中国を引き入れる外交交渉はどうなっているか。
玄蕃外務大臣:昨年10月に対話を開始した。ACTAと中国国内法の整合性について共同研究の場を設けたい。
山本香苗委員(公明):EU不参加の影響をどう受け止めているか。
玄蕃外務大臣:EUの対応を注視しながら働きかけをする。ただ6カ国が締結すれば発効するので、まずスタートさせてから働きかけをしたい。
山:新たな国内法整備は不要か。
玄:国内法で改正が必要だったのは、技術的保護手段を回避する装置の製造を規制することのみ。著作権法改正ですでに手当済み。
山:第23条について、個人が行う違法ダウンロードはACTAがいう刑事犯罪の対象ではないということでいいのか。
八木外務省経済局長:違法DLの罰則適用はACTAでは義務づけられていない。
山:第25条の規定(差し押さえ、没収、廃棄)は個人には関係ないということか。
八:そのように理解している。
山:第26条(職権による刑事上の執行)について、職権により捜査を開始できる「適当な場合」とはどういう場合か。
八:「適当な場合」の範囲は、各締約国の判断に委ねられている。わが国では同条の実施のために現行の国内法を改正する必要はない。
山:著作権はわが国では親告罪であるが、第26条はその非親告罪化ではないか。
玄:職権によりやってもよくて、やらなくてもよいということ。日本はやらなくていいと解釈をしている。非親告罪化が各締約国に義務づけられているわけではない。
山:ここをテコにして今後、著作権の非親告罪化は考えていないということか。
玄:そういうことでございます。
山:第27条(デジタル環境における執行)で、現在のネット規制がさらに強化されるのではないか。
玄:現行の規制が強化されることはない。
山:第27条「その他の基本原則」とは何か。
八:ここに明示してある権利に基づく権利。例えば、プライバシーあるいは個人情報の保護に配慮してこれを不当に侵害しないことを確保するため、法令の定める公正な手続きによりこれを適正に行うことが求められる、こういう風に考えている。
山:ジェネリック医薬品の流通阻害になる可能性は。
八:ACTAは特許権は保護対象にしていない(注2)。認可されたジェネリック医薬品が正規の商標を付している場合はACTAの対象外。
山:台湾にはどう働きかけるのか。
八:今後の検討課題。
玄:働きかけを行っていきたい。
山:EUには今後どう働きかけるのか。
八:欧州司法裁判所の見解が出た後、欧州委員会、各国との協議を行っていく。
山:わが国としてACTAレベルを世界のスタンダードにしていくことが大事では。
玄:真摯に受け止めて進めていきたい。
佐藤公治委員(生活):(EUでの否決について)何が足りなかったのか、これからどう説明していくのか。
玄蕃外務大臣:署名したときは、中国にまず働きかけなくてはと思った。EUでの動きを分析してどういう働きかけがよいのか判断したい。
佐:行き過ぎた国内環境の整備・運用があった場合は見直すことを明言してほしい。
玄:山本香苗委員にお答えしたとおり。
小熊慎司委員(みんな):EUでの否決は外交上の大きな失敗。難しい案件ではなかったはず。誤解を理解に変える努力を怠ったのでは。
玄蕃外務大臣:事前に行うべきことがあったのだはというと、確かにそういう所があるのかもしれない。協定が発効して中国などが入ってきたときは、意義あるものになっていくと思う。
その後討論なし。採決に入り全会一致で承認。
(注1)欧州議会での採決を前に、欧州委員会はACTAの合法性について欧州司法裁判所に諮問していた。ACTA推進派はその結果を待つよう主張し、反対派はこれを採決の引き延ばし戦略だと非難した。結果的には欧州議会は諮問結果が出る前に否決した。
(注2)第5条(h)にある「知的財産」の定義によると、特許も含まれるはずである。さらに説明を聞きたいところ。
答弁を見る限り発効させる前に意見すべきだと思いますが玄葉外務大臣は思いのほか慎重な様です。
他の5カ国で否決されて潰れてくれれば理想ですが万が一の場合は「国内法」を整備する段階でも抵抗する事は可能です。
表現の自由を脅かすものではないしプロバイダに監視を義務づけるものでもないと言った以上それを守らせないといけません。




