
※画像出典:読売新聞オンライン
政府は2022年末に控える「国家安全保障戦略」などの改訂に向けて防衛力の抜本的な強化に着手しました。所謂「敵基地攻撃能力」の保有の是非を本格的に議論、これを念頭に米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討します。岸田政権は防衛力の5年以内の抜本的な強化を掲げています。
目次
▶敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)を巡る政府・与党のスタンス!
▶改良型12式地対艦誘導弾の配備は「2026年以降」に!
▶長射程ミサイル搭載の潜水艦を新造「海軍力増強」は世界的な潮流!
▶防衛力強化の背景は台湾有事?
▶管理人後記!
■米製トマホーク導入案浮上 反撃能力の整備念頭―政府
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022102800986&g=pol
時事ドットコム 2022年10月29日 07時16分
米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を導入する案が政府内で浮上した。「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有を念頭にしたもので、すでに米国側に打診している。政府関係者が28日、明らかにした。
■外国製ミサイル購入検討を 防衛力有識者会議の要旨公表
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022103100849&g=pol
時事ドットコム 2022年10月31日 16時35分
政府は31日、防衛力強化を議論する有識者会議第2回会合の議事録要旨を公表した。有識者からは、相手の射程圏外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」について、外国製ミサイルの購入を検討するよう求める意見が出た。政府内には、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入案が浮上している。
敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)を巡る政府・与党のスタンス!
政府はこれまで「敵基地攻撃能力」の保有についてミサイルなどによる攻撃を防ぐ際に例外的に「可能」とする考え方を示してきました。自民党の安全保障調査会は今年4月に名称を「敵基地反撃能力」に変更した上で保有、対象範囲は敵基地に限定せずに「指揮統制機能」などを含めることを盛り込んだ提言を政府に提出しています。
改良型12式地対艦誘導弾の配備は「2026年以降」に!
これを受けて、防衛省は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を購入する検討に入りました。これは相手の射程圏外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」で、敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)の具体的な選択肢になります。
同省は陸上自衛隊の国産巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良型を量産、スタンド・オフ・ミサイルの柱に位置付けました。射程を1000キロメートル超にまで伸ばして「地上」だけでなく「艦艇」や「戦闘機」での運用を可能にする計画です。
12式地対艦誘導弾の改良型を配備するのは当初予定を3年前倒しして「2026年以降」になる見通しです。こうした状況を踏まえて、トマホークの購入で早期に抑止力確保、防衛政策上の空白を穴埋めします。
トマホークの性能は実戦で証明済みで信頼性は高いです。射程距離は米国海軍の公式発表で1600km以上。種類によっては3000kmを超えます。主に戦艦や潜水艦に搭載、1発当りの予算は数億円程度です。防衛省は自衛隊で使用する場合、海上自衛隊の「イージス艦」の「垂直発射装置(VLS)」を改修して運用する見込みです。
一方で、トマホークの購入を検討・交渉を開始したものの「実際に購入できるか否か?」は米国側の返答次第です。また、トマホークを購入しても使用するにはシステムなどの改修は必要で装備化にはある程度時間を要します。
■トマホーク搭載の潜水艦を視野、「実験艦」新造を検討…防衛大綱に開発方針記載へ
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20221028-OYT1T50272/
読売新聞オンライン 2022/10/29 05:00
政府は、長射程ミサイルを発射可能な潜水艦の保有に向け、技術的課題を検証する「実験艦」を新造する方向で調整に入った。年末までに改定する防衛計画の大綱に開発方針を盛り込む見通しだ。実戦配備に進めば、米国政府に購入を打診している巡航ミサイル「トマホーク」の搭載も視野に入れる。
長射程ミサイル搭載の潜水艦を新造「海軍力増強」は世界的な潮流!
読売新聞の記事によれば、政府は長射程ミサイルを発射可能な大型潜水艦の保有に向けて技術的課題を検証する「実験艦」を新造する方向で調整に入りました。この新型潜水艦を実戦配備できれば、海中から地上目標を攻撃可能な長射程ミサイルを発射できます。
潜水艦は地上の発射基地に比べて探知は難しく秘匿性は高いです。実験艦は「VLS搭載艦」で「2024年度」に設計に着手、数年を掛けて建造する計画です。12式地対艦誘導弾の改良型や米国政府に購入を打診している「トマホーク」の搭載を視野に入れています。
ミサイルの発射方式は、潜水艦胴体での垂直発射方式(VLS)と水平方向への発射を検討、実験艦の試験結果に基いて10年以内に実用艦の導入を最終判断します。2022年末までに改定する防衛計画の大綱に開発方針を盛り込む見通しです。
対地の長射程ミサイルを発射可能な潜水艦は米英仏中露などで保有、韓国では「弾道ミサイル」を発射できる潜水艦を配備しています。海軍力増強は世界的な潮流です。
■南西防衛へ民間輸送力3倍に増強 政府検討、台湾情勢に備え
https://nordot.app/958470741060042752
共同通信 2022/10/28
政府は、有事の際に自衛隊部隊や装備を最前線に迅速に輸送するため、優先使用契約を結ぶ民間船舶の数を増強する方針を固めた。台湾での事態緊迫化などに備え、現在の2隻から6隻程度へ約3倍に増やす計画。自衛隊の輸送力不足を補う狙いだ。拠点の離島へ円滑に物資を運べるよう、仮設の桟橋や埠頭を設置する研究も進める。国家安全保障戦略と共に12月に改定する「防衛計画の大綱」などに民間輸送力の活用拡大の趣旨を盛り込む方向だ。関係者が27日、明らかにした。
防衛力強化の背景は台湾有事?
防衛力強化の背景は所謂「台湾有事」です。中国の習近平国家主席の3期目体制の発足です。同氏は今後の台湾政策について平和的な統一に向けて最大限の努力を強調したものの「決して武力の使用を放棄することはしない」と述べました。具体的に武力行使に言及した形です。
一方で、米国は台湾と兵器の「共同生産」に向けて協議を開始、ジョー・バイデン大統領は「台湾を守る」と度々発言するなど中国に対して強硬な姿勢を示しています。米国の態度を見れば「台湾有事」は現実的にあり得るシナリオです。日本はこれを見据えて侵攻を阻止・排除できる能力の確保を急いでいます。
尚、政府は台湾有事を念頭に人員や物資を大規模に輸送する能力を増強する必要性を強調、自衛隊の輸送能力を補う目的で確保している「民間フェリー」の体制を現在の2隻⇒6隻程度に増強します。
管理人後記!
日米安全保障体制の下では一貫して米国は矛で日本は盾の役割を担っています。日本は相手の基地の攻撃を目的にした装備を持つことに関しては慎重な姿勢を貫いてきました。しかし、ロシア・ウクライナ情勢や台湾有事(の可能性)を想定してこの方針を事実上転換した形です。
敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)は法理論上「憲法」で認める「自衛」の範囲に含まれます。あくまで政府見解では「専守防衛」を逸脱していません。昭和31年当時、鳩山一郎首相は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうにはどうしても考えられないと思うのです」と発言したことで知られています。
転機になったのは一昨年、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念です。自民党はこれを切っ掛けに抑止力向上の為に敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)を含めて早急に検討して結論を出すように政府に促しています。
政府・与党の間では敵基地攻撃能力(敵基地反撃能力)の保有は既に確定路線です。防衛費の増額を主張しているものの増額分の防衛費はこれに使われることになりそうです。前述のように「台湾有事」は十分あり得るシナリオです。米国の戦争に加担することは避けなければなりません。この点に関しては要注視です。





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