
2020年1月17日(金)。大阪市の「ヘイトスピーチ抑止条例」に基いてヘイト行為を行った個人や団体の名前を公表した件について「大阪地方裁判所」は「条例による表現の自由の制限は『公共の福祉』の為に容認される」と「合憲」の判決を下しました。これは大阪市在住の男女8人の起した裁判で「憲法で保障する『表現の自由』を過度に制約する恐れがある」と訴えていました。インターネット上では「ヘイトスピーチの是非」「憲法」「表現の自由」を巡って賛否両論飛び交っています。
■大阪市のヘイトスピーチ抑止条例「合憲」大阪地裁判決
https://www.asahi.com/articles/ASN1K4W12N1KPTIL00R.html
朝日新聞デジタル 米田優人 本多由佳 山城響 2020年1月17日 19時03分
大阪市のヘイトスピーチ抑止条例は憲法が保障する表現の自由に反するなどとして、市内在住の男女8人が松井一郎市長に対して、ヘイトスピーチを認定する審査会の委員の報酬など計約115万円の支払いを吉村洋文前市長に請求するよう求めた住民訴訟の判決が17日、大阪地裁であった。三輪方大(まさひろ)裁判長は条例は合憲と判断し、市民側の請求を棄却した。
■大阪市ヘイト禁止条例で初の実名公表 在日韓国・朝鮮人に差別的言動の2人
https://mainichi.jp/articles/20191227/k00/00m/040/410000c
毎日新聞 2019年12月27日 20時02分(最終更新12月27日23時15分)
大阪市は27日、特定の民族や人種への差別をあおる言動の抑止を目的とした条例に基づき、市民に対する悪質なヘイトスピーチなどがあったと認定した2人の氏名を公表した。市によると、同様の条例を持つ自治体で実名公表に至ったのは全国初。市は「公表により、ヘイト行為を許さない市の姿勢を市民に知ってもらうため」と説明している。
■【大阪】保守速報だけじゃない、他35件もヘイトスピーチか審査中 認定されれば氏名公表
http://blog.livedoor.jp/nanyade/archives/22845288.html
ハンJ速報 ニュース 2019年12月30日
大阪市は他にも35件の表現についてヘイトスピーチに該当するかどうか審査中です。
ヘイトスピーチ規制の是非に関して「議論の土台」に!
大阪市の「ヘイトスピーチ(憎悪表現)抑止条例」に基いてヘイト行為を行った個人や団体の名前を公表した件について「憲法で保障する『表現の自由』を過度に制約する恐れがある」として市内在住の男女8人は松井一郎市長に対してヘイト行為を認定する審査会の委員の報酬など「関連費用約115万円」の支払いを条例制定時の吉村洋文前市長に請求するように求めていました。
大阪地方裁判所の三輪方大裁判長は「条例は憲法が保障する表現の自由を制限する」と認めた上で「条例に基づく発言者名公表などの拡散防止措置などは『公共の福祉』による合理的で必要なやむを得ない限度の制限として容認される」と判断して「合憲」の判断を下しています。
原告側代理人の徳永信一弁護士は判決後の会見で「政治的な発言をする表現者らを萎縮させかねない判決で大変残念だ」と不満を示しました。一方で、ヘイトスピーチ規制の是非について初めての憲法判断を示した事について「議論の土台になる判決だ」と評価しました。原告側は控訴する方針です。
ヘイトスピーチ抑止条例!
2016年1月15日(金)。大阪市議会は全国初のヘイトスピーチの抑止策を纏めた条例案を「大阪維新の会」「公明党」「日本共産両党」などの賛成多数で可決・成立しました。正式名称は「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」です。同年1月18日(月)に公布⇒施行しています。
同条例は「ヘイトスピーチ」を「特定の人種もしくは民族の個人や集団を社会から排除し憎悪や差別意識を煽る目的で侮蔑や誹謗中傷するもの」と定義しました。罰則規定はありません。市外で行われた行為も市内の関係者に影響あれば適用されます。
街頭デモなどで被害を受けた市民等の申出等に基いて弁護士ら5人で構成される「大阪市ヘイトスピーチ審査会」の意見を聞いた上でヘイト行為を行ったと認定した個人や団体などの名称を公表する事で抑止を図る内容です。拡散防止措置として事案の内容に応じて「掲示物」などの撤去やインターネット上の映像等の削除要請を行います。
ヘイト行為認定⇒氏名公表まで!
2019年12月27日(金)。大阪市はヘイトスピーチ抑止条例に基いてヘイト行為に該当する街宣活動を行った政治団体の代表など2人の氏名を公表しました。公表されたのは政治団体「朝鮮人のいない日本を目指す会」の川東大了氏とまとめサイト「保守速報」の運営者の栗田香氏です。
市民団体の申し出を受けて大阪市は審査会に諮問。審査会は同年7月に両者のヘイト行為を認定。氏名公表の答申を同年11月に受けた市は当事者の意見を聞いた上で公表に踏み切っています。
尚、毎日放送の記事によれば大阪市は他に「複数の表現」を審査している事を明らかにしています。審査対象は「35件」程度で同市の審査会でヘイト行為と認定されればいずれも同じように全国に氏名を公開する方針です。
保守速報について!
保守速報は「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)系」の「まとめサイト」で「朝鮮人撲滅」等の差別を助長する不適切なコメントを掲載した事でヘイト行為を認定されました。安倍晋三の公式フェイスブックに「いいね」された事で問題になっています。記事内容を巡って物議を醸す事は多々あります。
保守速報の記事を転載した「自民党シンパ」で「自称保守」の「まとめサイト」は無数に存在しています。こうした記事は各社の「ブログランキング」で上位にランキングされる傾向にあります。また、保守速報を情報源にTwitterなどで拡散している人や広告を出していた企業もありました。こうした状況を鑑みて今回の氏名発表の意味は大きいと思われます。
条例の運用に課題山積!
氏名や名称の公表は現行法上ギリギリのラインで抑止力になり得ます。大阪市はヘイトスピーチの「定義」を現実的な範囲で絞っていて個人的に方向性は評価しています。また、大阪地方裁判所の判決も「公共の福祉」の本来の意味を考えれば概妥当です。
一方で、ヘイトスピーチ規制を巡っては常に賛否両論飛び交っています。本件の懸念点は「大阪市に住んでいないケース」で公表に踏み切った事です。市外で行われた行為も市内の関係者に影響あれば適用されます。地方の条例なのに事実上「日本全国」の活動を対象にしていて明確に「条例の域」を超えています。
また「同姓同名」の人に対する配慮はなく巻き添えを食らう事に何の対策も講じていないのはマイナスです。特に「氏名」を公表する行為は公権力によって「差別主義者」である事を評価するに等しく新たな差別を生み出しかねません。
今後の展開に要注意!
ヘイトスピーチは絶対に許されません。しかし、以前お伝えしたように「ヘイトスピーチ」は「国際法」において定義も条文もありません。法務省は一応の基準を示しているものの「時代」「状況」「前後の流れ」「言葉のニュアンス」などで受け取り方は変わります。
論理的な解釈ではなく個人などに恣意的に解釈される事は多々あって非常にセンシティブな領域の話です。また「規制強化」を声高に叫ぶ人ほど「表現規制」を甘く見ていて「ヘイトスピーチ」の概念を濫用する傾向にあります。そういう意味で今後の展開に一抹の不安を感じます。




